【 例題1-① 】認知症患者さんの胃ろうを抜去してほしいと家族から要請をうけたら

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みなさま,こんばんは.

今年も明日だけになりましたね.

わたしは,日本内科学会総合内科専門医,日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医,
臨床遺伝専門医制度委員会認定臨床遺伝専門医です.

がんもそうですが,遺伝の分野も医療倫理学と切り離せませんし,この二つの分野でなくても
内科専門医として,倫理的に難しい問題を現場で解決していかないといけないことが多かったため
医療倫理学・臨床倫理学には大変興味があります.

ちなみに,興味がある分野だけですが,お勉強が大好きなので,医師歴8年めに
某法学部に学士入学しました.
しかし,商法でつまづいて卒業できませんでしたが!
6法のうち,商法以外は,当時割とお勉強しました.

そして,医事法学は,今でも頑張ってお勉強しています.

しか~し!!
ここで間違えてはいけないことは,こうやって一生懸命お勉強したからと言って
わたしは決して賢くはないと言うことです.
わたしは,実は,漢字はもちろん国語一般と地理と歴史とか,一切合財苦手です.

ある日の患者さんと私の会話です.

患者さん:先生,わたし,???(朝鮮半島の地名(>_<))で育ったんです.
医師:あらそうなの~.フィリピンっていいところよね~.
患者さん:先生,フィリピンの首都はマニラです.(ここから推測するに首都っぽい?)

ま.こんなの日常茶飯事です.

ある日のわたしの友人弁護士Mと遺伝関係者Tとわたしの会話です.

医師:そういえば.投げ縄してみんな捕まえるって何だったっけ?
T:は?先生?なんですかそれ?
弁護士M:もしかして一網打尽のことですか (´・ω・)
医師:せいか~い!やっぱ付き合い長いと段々わかるようになるんだよね~.
弁護士M:それにしても酷すぎますね.
医師:医師国家試験に出ないものは知らないのです(キリッ

こんな調子です.
だから,医師が賢いとか勘違いしてはいけません!!
弱点はきっとある!!(弱点だらけともいう)

わたしが生意気だなとか,思ったら,四字熟語や慣用句や漢字の読み書きをぶつけてみるのが効果的かも~.

そういえば,つい先日のお食事会でも...
A:これでも漢字も熟語もダメなんですよ~.
B:え?じゃあ,いっちょういっせきと同じ意味の四字熟語を述べよ.
A:それっていっせきにちょうではないんですか? ←どうやら人生で初めていっちょういっせきという言葉に遭遇したらしい.
しかし,幸運なことに,この場に,いっちょういっせきを人生で初めて聞いたという人が5人のうち3人いました!(笑)

あ.話を元に戻しましょう.

倫理的法的社会的諸問題(Ethical, Legal and Social Issues; ELSI)を時間軸を未来に向かって(前方向視的,プロスペクティブにといいます)
解決していかないといけないのが医療現場だからです.

わたしは,医学科女子学生の時から,凄腕弁護士が教育してくれましたので,弁護士の皆様に抵抗があまりなくて
弁護士のお友達が多いのですが.

弁護士の皆さんとの一番の違いは,思考回路が前向きか後ろ向きかということだと思います.
あくまでも時間軸ですが.

弁護士は,最終的に判断するのは裁判官という仕事ですよね.
何かあったら,あった事実を現時点から過去に向かって(後方視的,レトロスペクティブにといいます)分析します.

しかし,わたしたち医療職は,医療現場の難題を,現時点から明日に向かって
解決していける知恵を持たねばなりません.

だから,必死でお勉強するのです.

全員が納得する道はないかもしれません.
だけど,最大多数が最大限納得できる道を探る.

わたしはそうしたい.

それでは,今日は,認知症の胃瘻(PEG)について考えてみましょう.

例題:胃ろう抜いてほしい家族の要請を受けました。

認知症で寝たきりの70代女性.栄養障害,褥瘡などいろんな合併症があります.
勝手に胃ろうを増設されたため抜去してほしいと配偶者(キーパーソン)から要請されました.
手術同意書に印鑑は押していただいているのですが.
退院する段になって,PEGならば施設では対応できないと言われたとので,抜いてほしいとのこと.

さて,どういう問題があるでしょうか?

①本人が法的に有効な意思決定ができない.⇒有効な意思決定とは何か?
②本人の事前指示(有効な意思決定が出来なくなったとき,こんな場合はこうしてほしいと予め作成しておく書類)がない
③配偶者が本人の意思を正しく代弁しているかどうかが,確認できない.
④配偶者が法定代理人ではない場合(殆どはこれにあたるでしょう),代理権が認められるのはどの範囲か.
⇒普段,私たち医師は,このようなことを考えたり,確認したりする時間もなしに,追い立てられていますが..
配偶者と本人が実は利益相反していたら???とか,考え始めると恐ろしい問題です.

実際,昔,経験した症例です.本人は意識不明の急性腹症(すぐに開腹しないと命にかかわります),
数十年前に離婚,一人いる子供は小さいときに捨てられたと本人を憎んでおり,手術などせずに早く死んでほしいと
表明し,手術同意書にも麻酔同意書にもサインしない,というのを経験したことがあります.
しかも,こういう時に限って,夜なんですよね.....
臨床現場でもめにもめました.
死んでほしい,お父さんなんて大嫌い,と言って話を聞かない子供さん...
数十年ぶりにいきなりこの状況で再会,しかも緊急に呼び出されて,ですから,一方的に責められません.
しかし,説得している間にどんどん本人の全身状態が悪くなっていきます....
同意書なんていいじゃないか?
本人が死にたいと言っていたならともかく,意思表示できないだけだから,説得する時間をかけるのではなく
手術すべきだ,という考えと.
あくまでも手続きは手続きとして踏むべきで,それを飛び越えるべきではない,手術したら必ず助かるのではないのだから,という考えと.
現場は本当に深刻に対立しました.
夜だけど,倫理委員会に話を持って行こう,とした矢先に,患者さんは亡くなりました.
無力感でいっぱいになりました.....

踊る大捜査線ではないですが
事件は現場で起きるんです.

だからこそ,現場に携わる人たちは,日々,こういう場合は何がどう問題で,どうするのが最善かと
思考実験を怠ってはいけないのだと私は思っています.

⑤PEG造設の際の同意書は有効か.⇒ 長くなるので続編で!

⑥経口摂取できないためにPEG増設したのに,抜去すると低栄養状態となり,生命予後に悪影響があるのではないか.
⇒上に同じく.

この例題に似た事例として,抜いてくれとは言われませんでしたが,わたしも経験あります.

ある患者さんの奥さんが,突然言いました.
「こんなことなら胃ろうなんてしなきゃ良かった...」

いまさらですが,補足しておくと,胃ろうというのは,口からの摂食が不可能または困難な患者に対し,おなかの皮膚と胃の間にトンネルを作ってチューブを留置し,食物や水分などを流入させ投与するための処置です.
1979年に米国で内視鏡的を用いて胃ろうを造設する経皮内視鏡的胃瘻造設術 (PEG)が開発されました.それまでは開腹手術しなければ胃瘻は作れませんでした.日本においてはPEGが1990年代に急速に普及しました。

患者さんは脳血管障害で,ある日突然倒れて寝たきりになりました.

病院では,嚥下機能が回復しないので,胃ろうを作りますか?という説明しかなかったということです.

それから7年.

意思表示ができない,寝たきりで動けない旦那様と,健常な奥様の暮らしが続いていました.

胃ろうを作らなければ良かった,という後悔....
このご夫婦は,環境的には恵まれていました.

介護する第三者のマンパワーが,24時間あるところにお暮らしだったからです.

一体どういうことかな?と質問してみると...

作らなければ自宅に帰れない,ということは聞いていたが,作った後,こんなに長く動けない,
ものも言えないという人としての尊厳を脅かされる形で夫の生活が続くとは言われていなかった.

作らなければ死ぬといわれたら,作らざるを得なかったけど,
あのときに作った結果どうなるかをきちんと説明されたかった....
あの時は突然で,気が動転していたけど,こんなに長い間,
こんな状態ですごさないといけなくなると知っていたら,胃ろうなんて作らなかった....

そう言って涙ぐんでいました.

いずれにしても,利益不利益一切合財きちんと説明しないといけませんよね.
いろいろ考えさせられました.

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