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NIPT(新型出生前診断)の保険適応: 海外の制度も正しく知ろう

出産を迎えるにあたり、NIPT新型出生前診断)は妊娠中における健康な母子の診断ツールとして注目を浴びています。しかし、この高度な検査の費用は一部の国や保険制度ではカバーされています。この記事では、NIPTの保険適応の日本と海外の制度に焦点を当て、費用負担を軽減し、安心して検査を受ける方法について探求します。妊娠中にNIPTを検討している方々に、保険適応のメリット、デメリット、条件、および今後の展望について詳しく説明します。

各国でのNIPTを受ける妊婦の割合

ベルギー >75%
イタリア、スペイン、オーストリア、オランダ、アメリカ 25~50%
となっています。

各国でのNIPT保険適応の状況

日本では、NIPTは保険償還されず、全額自己負担です。それでは、海外ではどうなっているのか状況を見ていきましょう。

アメリカでのNIPT保険適応

まず、アメリカの国民皆保険の部分であるメディケイドは、NIPTをカバーしていている洲としていない洲(9洲)に分かれます。メディケイドがカバーするのはあくまでもハイリスク妊婦です。さらに、米国食品医薬品局 (FDA) は NIPT の評価に関与しておらず、検査業界は多数の民間および公的保険会社と個別に交渉しています。米国でNIPTの保険適応を受けようとすると、民間医療保険プランに入る必要があります。しかし、アメリカの民間医療保険は、毎月30万円などといった高額であることが多いので、日本の医療保険と同じに考えてはいけません。また、米国ではすべて自由診療ですので、医療費は病院側が決めます。したがって、同じ医療を受けても医療機関により価格に大きな変動があります。

米国の民間医療保険会社であるユナイテッド・ヘルスケア、シグナ、エトナ、モリーナ・ヘルスケア、アンセム、ヒューマナといった民間医療保険がNIPTをカバーしていますが、保険償還を受けるための条件が厳格に限られています。

米国で民間保険会社からNIPTを保険償還してもらうための条件としては、大体以下の状況が必要となります。

  • 出産時の母体年齢または卵子年齢が35歳以上。
  • 異数性のリスク増加を示す胎児超音波所見
  • 過去にトリソミーの妊娠歴がある。
  • 異数性に関する妊娠第1期または第2期のスクリーニング検査結果が陽性。
  • 親が均衡型ロバートソン転座で、胎児13トリソミーまたは21トリソミーのリスクが増加している。

これらのうちいずれかに該当することが求められます。

また、実際にNIPTを受けるためには、認定遺伝カウンセラーまたは出生前ケア医師または医療専門家による検査前カウンセリングを受けた後にNIPTを受けることが必須になっているところが多いです。カウンセリングを受けずにNIPTを受けることは基本的には出来ません。

保険償還の対象となるのは基本的には13/18/21トリソミーで、その他の検査に関しては自費でオプションとなります。

ノルウェーでのNIPT保険適応

複合スクリーニング検査後にNIPTを実施しています。ノルウェーにおいては、38 歳以上の女性、または以前に問題のある妊娠を経験した女性にのみ複合スクリーニング検査を提供しています。したがって、複合スクリーニング検査(コンバインドテスト)を提供されるのはすべての妊婦の約10%にとどまっています。さらにこのうちの10%、つまり妊婦の1%がコンバインドテスト後にハイリスクと判断されて、NIPTの適応となります。

イギリスでのNIPT保険適応

イギリスでは公的手続きにのっとった検査を受ける場合には全額医療費は保険償還されますが、無料ではありません。一部償還または自費となります。

2016年より、NHS胎児異常スクリーニングプログラムの一環として、ダウン症候群(21トリソミー)、エドワーズ症候群18トリソミー)、パトウ症候群(13トリソミー)の既存のスクリーニング経路に非侵襲的出生前検査(NIPT)を導入されました。

NIPTは、単胎妊娠および双胎妊娠におけるトリプルマーカーまたはクワトロテストによるスクリーニング後に、これらの疾患のいずれかを持った赤ちゃんが生まれる可能性が高い(1/2から1/150)女性にとっての追加選択肢です。クワトロテストを受けることが可能なのは16週からですので、これらの検査を経ずにもっと早い時期にNIPTをうけたい場合には、自費になります。

イギリスは患者中心であり、女性の個人的な選択を擁護する傾向がより強いです。しかし、NIPTのルーチン化や女性に検査を受けるよう圧力をかけるリスクについて、公的議論の中で懸念が提起されています。

また、イギリスでは1967年、中絶法により、妊娠24週を超えた「重篤な」胎児の疾患罹患の兆候に対して妊娠中絶が合法化されました。

フランスでのNIPT保険適応

仏蘭西ではNIPTは保険で全額償還されます。しかし、公費で受けるには条件をクリアする必要があります。

1975年に成立したヴェイユ法により、12週以内の人工妊娠中絶が合法化され、さらに、胎児に重度の奇形がある場合、または、母体の生命に妊娠の継続が危険を及ぼす可能性がある場合は、妊娠12週を過ぎても随時、中絶手術を受けることができるようになりました。これには胎児が「特に深刻な異常」に罹患しているということを医学的に証明する必要があります。しかし、特に深刻と考えられる異常が何なのかに関する対象リストは作成されてきませんでした。

その後、フランス保健省は、胎児核型染色体検査)、超音波スキャン、血清マーカー、複合検査(血清マーカーの結果と超音波スキャンの測定結果を組み合わせて胎児のダウン症(トリソミー21)のリスクを評価することからなる)などのさまざまな検査に対する償還を段階的に認めました。ダウン症検査は、高リスクの高齢女性に限定されていたのですが、徐々にすべての妊婦に拡大されました。

フランスの政策の独創性はリスク閾値の設定にある。多くの胎児ダウン症を検出するために、1/1000に設定しました。この方針により、検査を受ける妊婦の数が増加したため、それまでの基準であった1/250よりも検査が増え、2018年には、妊婦の10%に当たる75,653人の女性がNIPTを受けることを推奨されました。しかし、出生前検査に関する従来の検査と同様に、検査の前に女性のインフォームド・コンセントが得られなければなりません。

しかし、フランスのNIPTでは、対象疾患をT21の検査についてのみ言及し、T13とT18については言及していません。そして、T21のみに検査を推奨しています。フランスの法律では、「この検査は 21 トリソミーに対して計画されており、他の染色体異常に対しては計画されていない」ことを女性に知らせなければならないと規定されています (§ II.A.2)。このように、フランスでは法律でダウン症に対してだけNIPTの適応をするように制限されています。

フランスの保健政策プログラムでは、出生時の障害を予防することに重点が置かれ、したがって、21トリソミー(ダウン症候群)の検出率を向上させるためのスクリーニングプログラムの重要性を強調していることが特徴的です。

ドイツでのNIPT保険適応

ドイツでは妊婦の自己決定権だけでなく、胎児を含む「すべての生きている人間」の「生きる権利」を強調する傾向があります。ドイツ刑法第 218a 条は、「妊婦の身体的または精神的健康」に対する危険性の医学的兆候がある場合など、特定の状況においては人工妊娠中絶が合法であると規定しています。ドイツは以前、胎児の病気を理由にした中絶を合法化する「胎児条項」がありましたが、それを撤廃した国でもあります。病気を持つ胎児への適応は妊娠中絶の法的根拠として明示的に言及されていませんが、実際には、この医学的適応は、胎児の異常または奇形の診断が妊婦の精神的健康に及ぼす潜在的かつ深刻な影響を防止することを意図しています。

染色体異数性に対する公的資金による集団出生前スクリーニングプログラム(CFTSなどの方法を含む)は、ドイツには存在しません。C複合スクリーニング検査などの出生前異数性検査は民間で受けられますが、公的医療保険では定期的に適用されません。母親の年齢 (35 歳以上) や超音波所見 (構造異常など) などの特定の兆候がある場合、診断技術 (羊水穿刺または CVS) が保険償還の対象になります。超音波検査は妊娠中に3回まで公的に払い戻されます。

2019年、ドイツの医療決定の監督において重要な役割を果たしているドイツ連邦合同委員会は、公的保険を通じてNIPTの費用を償還することを勧告しました。妊婦がカウンセリングを受け、個人的な状況で検査が必要であると十分な情報に基づいた判断を下した場合、ケースバイケースでNIPTが提供されることになります。特定の法律および規制環境、およびさまざまな利害関係者からの強い反対のため、ドイツは NIPT を一次検査として導入しませんでした。しかし、ドイツは現在、標準的な他の形式の出生前異数性スクリーニング(妊娠初期の複合スクリーニングなど)もまったく公的資金で提供していないため、特定の確率でカットオフすることを条件とするスクリーニングとして実施することもできません。

そのうえ、統計的にトリソミーのリスクが増加するだけでは、NIPTを保険で利用することはできません。他の検査でトリソミーの可能性が示された場合、または女性とその医師が個人的な状況で検査が必要であると判断した場合、費用が補償されます。償還は、トリソミーの可能性が女性に大きな負担を与え、それを明らかにしてもらいたい場合に発生する可能性があります。

ドイツでの出生前診断の議論における重要な倫理的懸念の1つは、選択的生殖、優生学、特定の状態の生命 (ダウン症患者など) の評価 (価値の低下) に関する倫理に関する問題に関連しています。これらは他の国にも存在しますが、歴史的背景によりドイツでは特に強調されています。

このため、ドイツでは中絶の決定に際しても厳しいハードルが科されています。

ベルギーでのNIPT保険適応

ベルギーでは、超音波検査に加えて、NIPT がすべての妊婦に提供されており、保険で償還されます。NIPTを選択する女性の割合は非常に高い75%以上と非常に高くなっています。

オランダでのNIPT保険適応

2017年以降、オランダではすべての妊婦がNIPTを第一選択のスクリーニング検査として利用できるようになりました。25~50%の女性がNIPTを選択します。NIPT は一部が自己負担で、一部が払い戻されます。

オーストラリアでのNIPT保険適応

王立オーストラリア・ニュージーランド産科婦人科学会 (RANZCOG) は、複合胎児スクリーニングまたはNIPTのいずれかが受け入れられる一次出生前スクリーニング検査であると述べています。

オーストラリアでは、複合胎児スクリーニングは部分的に政府の資金提供を受けていますが、NIPTは民間資金で運営されています。ケアのモデルに応じてNIPTの利用率には差があり、民間の産科ケアを受けている女性の50%以上から75%が一次スクリーニングとしてNIPTを利用しているのに対し、公立の患者では25%未満と差があります。オーストラリアにおけるNIPTの検査適用範囲は、通常、州によるよりもプロバイダー(医療機関)によって異なります。

海外のNIPT保険適応のまとめ

国により政策が違うのですが、妊婦全員にNIPTを提供しているのはベルギーとオランダのみです。一般的にはNIPTはコンバインドテスト等の一次スクリーニング検査でハイリスクと判定された妊婦のみに保険適応されています。

参考文献:
www.acog.org/advocacy/policy-priorities/non-invasive-prenatal-testing/payer-coverage-overview

Public reactions to non-invasive prenatal testing funding in England, France and Germany: The case of Heidi Crowter and Maire Lea-Wilson in England.


obgyn.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/aogs.13841
www.lidsen.com/journals/genetics/genetics-06-01-149
www.nature.com/articles/s41431-022-01256-x

NIPT保険適応のメリット

NIPTが保険適応されるメリットとしては、自己負担の軽減が一番に上がるでしょう。

ただし、NIPTは障害のある人たちの生まれる権利とぶつかるというデメリットがあるため、手放しで保険償還する国は非常に少数派です。フランスのように法律でダウン症だけを対象としてしまっている国もあり、自由な選択ができなくなることを考えると、自費であっても自分の意志で受けたい検査を受けられる日本の現状は悪くないと思います。

まとめ

NIPTを保険償還してほしいというお声をたくさん頂戴しておりますが、NIPTの保険償還は非常にナーバスな問題で、実現しないと考えられます。また、保険償還されると、たとえば3つのトリソミーだけに対象が絞られてしまったり、一次スクリーニングを受けてハイリスクな人だけを対象にするとかいうことが考えられるため、現状のように希望する人が自費で受けられる状況が好ましのかなと考えています。なので、今後の展望としても、NIPTが保険償還される可能性は低いのではと思っています。

ミネルバクリニックでは、NIPTの経験が日本有数の臨床遺伝専門医が常駐し、みなさまをサポートしています。

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ミネルバクリニックでは、以下のNIPT検査を提供しています。少子化の時代、より健康なお子さんを持ちたいという思いが高まるのは当然のことと考えています。そのため、当院では世界の先進的特許技術に支えられた高精度な検査を提供してくれる検査会社を遺伝専門医の目で選りすぐりご提供しています。

プロフィール

この記事の筆者:仲田洋美(医師)

ミネルバクリニック院長・仲田洋美は、日本内科学会内科専門医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 (がん薬物療法専門医認定者名簿)、日本人類遺伝学会臨床遺伝専門医(臨床遺伝専門医名簿:東京都)として従事し、患者様の心に寄り添った診療を心がけています。

仲田洋美のプロフィールはこちら

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